日本と韓国を遠ざけるメディア - 村上さんのところ

日本と韓国を遠ざけるメディア - 村上さんのところ/村上春樹 期間限定公式サイト

村上さんお願いします、意見を頂きたいです。
私と、私の父は日本生まれ日本育ちの日本人ですが、韓国の血が流れている在日韓国人です。私はただそれだけの理由で、韓国が好きです。無論、日本も大好きです。
こういう家柄もあり、韓国に何度か行ったことがありますが、出会った韓国人はみんな、私たち日本人のことを暖かく迎えてくれて、日本が大好きだと言ってくれました。

しかし、ネット上では、猛烈な嫌韓思想の方々の意見を目にすることが頻繁にあります。
その度に私は、日本のメディアを恨みます。
なぜなら、日本のメディアのせいで、多くの日本人が、「韓国人は日本が大嫌い」だと勘違いしているからです。日本のことが嫌いな韓国人も少しはいると思いますが、日本のメディアはその部分しか伝えないのです。
もしかすると韓国のメディアも同じことをしているのかもしれません。
私はこの現状に納得がいきません。もっとお互いを好きになっていいと思うのです。

この日本と韓国の関係はどうすれば改善できると思いますか。
(もし村上さんが嫌韓思想だったなら、申し訳ありません。)
(ただの日本人、男性、20歳、大学生)

僕もメディアがことさらそういう面を取り上げて報道しているという感触を持っています。メディアというのはどうしても目立つこと、事件性のあることをニュースとして取り上げますし、それはまあある程度仕方ないこととは思うのですが、でも事実の歪んだ一面だけが強調される傾向は良くないですよね。健全なことではない。緊張がことさら強調され、まっとうな妥協を恥とするような機運がつくられていくのを目にするのは、心痛むことです。

僕は世界を旅行して、隣同士の国でものすごく仲が悪いという例をいくつも目にしてきましたが、(いろいろと事情はあるにせよ)そういう間柄は本当に不幸だと思います。もっとお互いをよく知り合い、仲良くなりたいものです。そういう意味で、僕の小説が韓国で多くの人に読まれているというのは、僕にとってはとても嬉しいことです。歴史認識みたいなことに関して言えば、僕にも僕なりの意見がありますが、ここでそういうことを述べると、話がいささかややこしくなるので、とりあえずパスします。

村上春樹

 

(以下は僕の意見) 

現在日本と韓国の関係は良くない。首脳会談も開かれていない。

しかしそれはメディアのせいではないと思う。メディアは状況を反映しているエージェントであり、プリンシパルは別にいると思う。つまり従軍慰安婦問題とか竹島問題は、じゃあメディアが良好な関係を築けば解決するか?答えはNOだ。

この質問者にはおそらく他意はないのだろう。しかしうがった見方をすれば、日本の対韓ガードを緩くさせるための策略とすら思える。つまり河野談話みたいなものを引き出すための。

河野談話とは何だったのか?まず日本政府が、戦時中に従軍慰安婦を国が主導して強制連行をするという事例を捜したが、見つからなかった。しかし韓国側には元従軍慰安婦と名のるおばあちゃんが何人かいて、日本政府はその、韓国政府に選ばれたおばあちゃんの証言を聞いた。その証言が本当なのか嘘なのかを保証するものは何もない。ただ証言があるだけ

けっきょく河野官房長官時代の日本は、強制連行の記録もなく、あるのは真否のわからないおばあちゃんの証言だけという状態の中で、でも韓国と仲直りできるなら、ということで、強制連行があったと受け取れる「河野談話」を出した。韓国政府からも水面下で、従軍慰安婦の強制連行を認める文言がなければ困る、でもそういう文言を入れてくれたら韓国政府は今後この問題を二度と問題にしない、と水面下で言ってきた。それでは、ということでgood gestureとして、それを言った。

その結果がどうなったかといえば、韓国はそれにつけ上がったのだ。問題にしないどころか、日本政府ついに認めたと言って、20年たった今も、従軍慰安婦の像を世界じゅうに立てて、日本を貶めることに夢中である。先日は中国に安重根というテロリストの記念館も建てた。

韓国には、確かに日本を貶めよう、譲歩すればそれにつけ上がり、日本からむしり取れるものがあれば貪欲に奪おう、という意志が確かに存在する。それはメディアが主導しているのではなく、彼らの国の政府が主導しているのだ。それを選んだのは民主主義的手続きに則り韓国国民が選んだのだ。

僕は個人個人で、日本が好きな韓国人はたくさんいると思う。在日コリアンの中にも、やしきたかじんのように、率先して韓国を非難し日本の味方につく人も少なからず存在する。しかし韓国人がいくら日本人が好きだと強調しても、韓国には日本が好きだと言えないような雰囲気が確かに存在する。親日派と言えば韓国では売国奴を意味し、政治家が親日発言をすれば政治生命が奪われかねない。

だから、メディアが日韓両国を遠ざけるという言い方は狭いものの見方だと思う。たしかに度を過ぎた敵視の論調はある。日本にも韓国にも両方ある。決して日本にだけあるのではない。韓国は、スポーツの会場で「独島は韓国の領土」とか「歴史を直視しない日本に未来はない」とか「東日本大震災をお祝いします」なんていう垂れ幕を立てる国なのだ。

僕は、韓国にも、日本とは関係なく営まれる人の暮らしがあるんだと思う。それを否定するつもりはないが、同時に、強烈な反日感情があるのだ。人前で日本が好きだなんておおっぴらに言えない雰囲気のある国なのだ。強制連行20万人とか、ありえない嘘がまかり通って、それをもとに日本を非難し憎む国なのだ。

僕は、日本と韓国が仲良くなれるのなら、なるのがいいと思う。最終ゴールは友好であると思う。しかし、こちらがやわらかく譲歩した結果が河野談話だったのだ。言うべきこと、真実は、妥協なく主張しなければならない。もし彼らとの友情が存在するのなら、その真実の上にしかありえない。もし真実を遠慮なく主張してけんかになるのだったら、そのけんかの向こうにしか友好はありえない。言いたいことを言わず、嘘をベースに関係を築こうとしたのが、河野談話だった。そのようなやり方が成功することはないことを、我々は20年かけて学んだのだ。